Overview

研究テーマ

  本研究グループでは、電子ビームを扱った研究を行っています。電子は可視光に比べて波長が短く(λ~10-12 m) 、電子ビームを用いた電子顕微鏡は光学顕微鏡では見ることの難しい、ナノメートルスケールのものを見ることができます。また、電子顕微鏡は「拡大して見る」だけではなく元素分析や電子構造の解析、結晶構造の解析をすることもできます。
これまでに、半導体、磁性体、強相関電子系、準結晶、金属微粒子など多様な物質の解析や電子顕微鏡に応用する革新的な電子ビームの生成、新しい電子顕微鏡の開発に関する研究を行ってきました。
最近では、電子らせん波のイメージングへの応用、偏極電子ビームを用いた透過型電子顕微鏡の開発、動的変化を観測する超時間分解能透過型電子顕微鏡の開発を行っています。

計測インフォマティックスによる電子顕微鏡データの解析

スパースサンプリング原子分解能STEM像の修復・超分解能化

電子線の照射損傷を押さえるため、あるいは撮影時間を短縮して時間分解能を向上させるため、観察領域全体を電子線走査するのではなく、間引いて走査する方法(スパースサンプリング)があります。しかし、画像データの一部が欠損したり、空間分解能が低下することになります。このようなスパースサンプリングSTEM像に対して、辞書学習やテンソル分解などを適用して、欠落したデータの修復や画像の超分解能化、ノイズ除去を行う手法の開発を進めています。

材料解析手法の開発

電子回折による格子歪みナノスケールマッピング

結晶中の歪みや格子欠陥は、その電子物性および機械特性に影響を与えます。現在の半導体の微細化により、その評価法にも高い空間分解能が要求されます。収束電子回折をもちいてナノメーター領域の格子歪み分布および格子欠陥のキャラクタリゼーションを行う手法の開発を行っています。

準結晶の構造解析

準結晶は、結晶のような周期性がなくアモルファスのように無秩序でもない特異な構造秩序をもちます。この準結晶の構造を明らかにするために、収束電子回折、高分解能STEM、電子チャンネリング法など種々の電子顕微鏡に高次元結晶学を駆使した解析を行っています。

非弾性散乱電子による電子軌道解析

内殻励起をともなう電子非弾性散乱では、始状態と終状態の電子構造の異方性を反映して、散乱強度の角度分布に異方性が表れます。これを利用して、非弾性散乱の強度分布の異方性を定量的に評価し、フェルミレベル近傍の非占有状態の電子軌道の異方性を解析しています。

革新的な電子ビームの開発

電子らせん波のイメージングへの応用

電子らせん波はらせん状の波面をもつ電子波です。軌道角運動量をもつことから、磁気イメージングやナノマニピュレーションなどの応用が期待されています。電子らせん波の物理的性質を明らかにし、電子顕微鏡の新しいイメージング法への応用を研究しています。

スピン偏極パルス透過電子顕微鏡を用いた新規分析手法の開発

ナノテクノロジーに代表される機能性デバイスや生体分子機能は、そのナノメートルオーダーの構造から様々な性能・性質が発現されます。この時間変化を捉え、時間と空間の4次元情報を知ることで、詳細な仕組み・動的変化を読み解く方法やその装置について研究をしています。

スピン偏極パルス透過電子顕微鏡の開発

我々は負の電子親和性(NEA)表面を有する半導体光陰極を電子源に採用することで、電子線のスピンと時間を制御した透過電子顕微鏡(SP-TEM)の開発に成功しました。
その装置は下記の性能を実現しています。
・加速電圧:30 kV~50 kV
・輝度:3.8×107 A/cm2 sr @30 keV
・エネルギー分散:0.2 eV ( 概算 0.11 eV)
・空間コヒーレンス長:200 nm @specimen (電子線ホログラム)
・電子線パルス:16 ps
レーザー駆動によるパルス電子線発生を容易に実現できることから、超高速時間分解測定への応用が期待されます。
また、時間分解計測に特化した加速電圧100 kV のスピン偏極パルス透過電子顕微鏡(時間分解TEM)を開発し、様々な時間分解計測が実現できるようになっています。

SOI 技術を用いたダイレクト電子検出器の開発

Silion-On-Insulator (SOI) 技術を用いたダイレクト電子検出器の研究開発を高エネルギー加速器研究機構のグループと共同で行っています。ナノ秒電子線イメージングへの応用を見据えて、センサー開発およびData AcQuisition (DAQ) システム構築に取り組んでいます。

時間分解計測の応用

ナノ秒~サブピコ秒までの可逆反応、マイクロ秒~ナノ秒の非可逆反応をパルス透過電子顕微鏡を用いて解明を目指しています。現在、代表的な4つの対象(プラズモン、スキルミオン、高分子、岩石)について研究を進めています。

・プラズモン

金属がナノスケールの場合、その表面近傍の分極(表面プラズモン)を、透過電子線とのエネルギーの授受を介して観測できます。

・スキルミオン

特殊なスピン配列をもつ磁気構造のこと。スキルミオンは独立した粒子のように振舞う、一度生成されると壊れにくい、非常に小さい(ナノスケール)という特徴があり、メモリデバイスへの応用が期待されています。

・岩石・鉱物

地球を構成する岩石鉱物の結晶構造・粒界は、地球内部の環境と密接に関わっており、結晶状態と温度・圧力の関係を明らかにすることで地球内部の状態を解明することが可能となります。

・高分子・タンパク質

高分子材料やタンパク質などの物質は電子線照射に弱いため、一般に試料の冷却や、電子線照射量を抑え込む工夫がなされてきました。我々は、パルス電子線を利用し、これらの試料が壊れる時間よりも早く撮像し、壊れる前の情報を取得する新しい計測にチャンレンジしています。

Instruments

実験装置